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俺達の景色(不二家美学)

2009/02/12 [Thu] 22:37
電車に乗っていると昔から切ない気持ちになる。
何をするでもなく目的地に向かっているからだろうか。
手持ち無沙汰で、耳に流れてくる音楽を聴くだけの時間。
でも、俺はその時間がとても好きだ。
一定の速さで走る電車、向かいの窓でぼんやりと流れる景色は随分と小さく見えた。
小学校の頃、歩きながらみていた景色はあれほど高く、大きく見えていたのに。
突然大人にされてしまった。そう思うときがある。
電車に乗って学校に行くことが、急に時の流れを感じさせるのはなぜなのだろうか。
小学校の頃、歩いて学校に向かっていたからだろうか。
歩いてきた道はみんな同じはずなのに、俺だけ急に高いところに上らされて
置いていかれてしまったような気持ちになる。

駅につくと、俺はジャンパーのポケットにいれたMP3プレイヤーの音量ボタンを弄る。
人ごみで音が聞き辛い。現実の音を遮断するように音量を上げた。
背中に背負っているベースを、人にぶつからないように肩にかけ直す。
結局掛け直していたらサラリーマンの肩にぶつかった。
すいません、と頭を下げてはみたのだが、
疲れた顔のサラリーマンは俺に目もくれず、
何もなかったように俺の前を通り過ぎて足早に去っていった。

俺は不二家美学。渾名は苗字にちなんでペコという。
図体のでっかい高校1年生だ。部活は帰宅部。
現在はバンド活動にあけくれている。楽器はベース担当。
音低いし、聞こえにくい。わけわかんないから地味。
そう言われるけどリズム楽器だからバンドの要だ。と俺は思っている。
ちなみに今最も好きなタイプはめざましテレビの愛子ちゃんです(大変可愛いと思います)

「おい!!!」

バン、と俺は背中を叩かれて立ち止まった。(自己紹介中なのに!)
そこまで痛くなかったが、いってぇ、と肩を竦めながらイヤホンを外す。
金髪の高校生がにんまりと俺の横で笑っていた。

「何ぼんやりしとんねん! がっこ遅れる!」

「遅れないじゃん。まだ8時30分じゃん。20分もあるじゃん」

「気にしないじゃんじゃん!! ペコおはよ!」

「あれ? あっきーなんか妙に元気じゃない? 
 あ、もしかして噂の電車の彼女とあっちゃったのか? こんにゃろ~!?」

「ぶははは!! 羨ましかろ! 恋に燃える俺が!!!
ペコも日曜日は綾ちゃんとデートやったんやろ!? どやった!?」

「わさお歌ったら、美学ってやっぱなんか違う。歌わないで欲しかった。
 って言われてフラれました」

「ぶうううううううううううっ! 意味わからんし!! 
 まだ付き合ってひーふー…2ヶ月しかもってへんやん!!」

「俺…もうライヴで歌えない…!!」

「泣くな泣くな!! 女なんて星の数ほどおんで!!」

バンバンと何度も俺の背中を力強く叩きながら笑っているのが、
バンドメンバーの沢井章之。
ドラム担当の金髪イケメン関西人。俺のクラスメイトでもある。
非常にノリがよく、非常にモテるので普通男子高校生な俺にとっては
妙に腹立たしい、けど憎めない男だ。
表情がくるくる変わるので見ていて面白い。

(男子女子関係なくモテる男ってこういうやつだよな…うう…綾ちゃんさようなら…)

「あ!? 何俺に見惚れてるん!? 惚れるなよ!」

「やだよ! 俺は女の子が好きだよ!!!」

「知ってるわ! ぶはは! ……お、みつるー!! おはよ!」

あっきーがブンブンと駅にむかって大きく手を振っている。
俺も顔だけ駅に向けると一生懸命つまづきかけながらも走って来る人間が見えた。
(俺は視力が悪いし、乱視なので、眼鏡かけてても
 あっきーみたいに遠くの人が誰かまではわからないんだなー)
同じ制服だ。背中に背負ったギターを弾ませて俺達の前で止まる。

「うわあああ! おはよう! やば! ちちちち、遅刻するかと思った!」

「お、みっくんおはよう。大丈夫だって。余裕だから息して」

「吸って! 吸って! 吸って!」

ぜえぜえと呼吸をするみつるは、俺とあっきーより一回り小さい。
あっきーの言葉にあわせて、みつるは息を大きく三度吸った。

「もっかい吸って」

「吐かなーい(吐いたらあかんよ!)」

「…!? ちょおお! 2人ともお願い!! 吐かせて!! 息をさせて!!」

大笑いする俺達に、みつるはたらこ唇をとがらせる。

みつるの本名は望月みつる。
俺とあっきーのクラスメイトで、バンドのギター担当。
歌は個性的。まぁ、はっきり言って下手っぴである。
だが、ギターの腕前はピカイチだ。地味に上手い。
勿論プロほどではないが、それでも俺達より音楽センスは抜きん出ていた。
将来プロを目指したいという、みつるの夢も納得できる。

「あ、そだ! 今日の放課後どうする!?」

息を整えたみつるの質問に俺とあっきーはにやりと笑う。
俺はみつるにむかってピースを揺らす。

「決まってんじゃーん。アイデンティティ確立しようぜ―!!!」

「よっしゃああああ!!夜までCabanaこもんで!
 ……ペコ、アイデンティティの意味しっとる!?」

「任せろ!!! 全然しらねええぇぇ!!!」

「だめじゃん! ヒュー!!」

みつるがくしゃっとした顔で笑った。
みつるのだんご鼻が脂で光っていた。

「おおう!?」

あっきーはびくっと体を震わせると、ポケットからごそごそと携帯を取り出した。
携帯を開くと、ぎゃ! とでっかい声で叫んだ。(それに俺とみつるがビビった)

「やばいわ! 予鈴まで10分きっとんぞ!」

慌てて走り出すあっきーにつられて俺とみつるは一緒に走り出す。

「マジかよ!!」

「ぎゃー!!!」

どうりで学生の姿が駅から見えなくなっていたはずだ。
でも駅から学校はそう遠くないので全速力で走れば十分間に合う。
ただ、学校の前は斜面がきつめの坂道なので、物凄く疲れる。
学校前の坂道を走るとすぐに息が苦しくなった。
息を切らしながら海の見える坂道を必死にかけあがった。

やばいやばいやばい。

全速力で走ると視界一杯に建物ばかりだった景色がどんどん開いていく。
今日も海に光が反射して綺麗だ。

走れ走れ走れ。

必死に全速力で学校に向かってるはずなのに、
俺はどこか物凄く遠くに向かっているような気がした。

胸がくすぐったくて、切なくて。
俺達は3人一緒なら、景色が小さすぎて見えなくなるまで
どこまでもずっと走っていけるような気がした。
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