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俺達の景色(望月みつる)

2009/03/03 [Tue] 21:45
「もう8時か! 楽しい時間はあっという間やな!」

あっきーが真っ暗な空に向かって勢いよく背伸びをした。

「ギター弾きすぎて指の感覚ない…」

ちょっと前まで指はひりひり痛かったのに…。
どうやら俺はK点を越えたらしい。
指はもう真っ赤を通りこうして青白くなっていた。

「よく歌い、よく弾きました…。やっぱいいよね。アンパン●ンの歌…」

「ペコ…歌詞思い付かんからって自暴自棄になりすぎやで。
 思わず適当に合わせた俺らもアホやったけどな」

「……。みつるだってまだ作ってないもんね!!」

「ぶうううっ! 俺をひきあいに出さない! 俺は大器晩成型なんだからね!」

ペコは俺のギター(ひろし。舘ひろしのひろしだよ!)を引っ張る。
2人がバランスを崩す俺を指を指して笑った。

「じゃ、俺は帰るわ! はよ帰らんと! 今日餃子やから!」

あっきーは手をブンブン振って走っていく。慌てているのか、道の石に躓いていた。
本当は部活帰りのあおいちゃんに会えないかうきうきしてるのを俺とペコは知っている。
(ペコが例の電車の子をあおいちゃんと勝手に名付けていた。
 あっきーが宮崎あおいを好きだから)

あっきーはいろんなことに一生懸命だ。
一番好きなことだけをやっている。そんな感じだった。
自分を曲げてまで、嫌いなことをすることはまずなかった。
だから毎回といっていいほど、俺とペコは
あっきーの分まで数学の宿題をしていた。(俺はほとんど手伝ってないけど)

嫌ことをしないあっきーは淀みがなくて、
あっきーの金髪みたいにいつもキラキラしていた。

「さて、自転車返しにいきますか」

「……」

「みつるは好きな子を探しに帰らないよな。好きな子いないもんな」

「す、好きな子なら、俺にもいるよ!(そういうペコの方こそ綾ちゃんはいいの!?)」

「むっちゃんの名前出したら、そこのローソンのからあげクン奢らす」

「……(バレテーラ)」

「……さぁ、武やんちのマンションにこっそり自転車おきにいくか」

「謝らないの!?」

「さっきメールしたら彼女と飯食ってるって」

ペコは砂だらけになった自転車を押しながら俺と並んで歩く。
人混みの多い通りを流石に2人乗りはできない。
道には食べ物や行き交う人達の匂いが混ざって漂っていた。
居酒屋やゲームセンターのネオンがチカチカしていて、
今からまだ夜は楽しくなるよと言っているようだった。
通りには部活帰りの高校生も多い。
近隣高校の制服や部活用のサブバックがちらちら人混みから覗いていた。

「あ、そういやペコ、綾ちゃんは?」

たった今すれ違った女の子が綾ちゃんに似ていた。
ペコの中学の同級生で、写メを見せてもらったら
小さくて可愛らしいかんじの子だった。

「……別れた」

「そっか―。……ぇええええ!!?? はっや!! 早くない!?」

横でペコが前ばかりを見つめて歩いている。
俺はこういう時1番頼りにならないことに大変定評がある。
ポケットに手を突っ込んで、中にあったiPodを無意味に弄った。

「2ヶ月で終わったわ…」

「そ、そっか。そうなんだ…う、うん…なんていうか……そっかぁ…」

「良いこと言えよ!」

「お、俺大器晩成型だもん!!」

「ウォオオオ――!!」

「ちょ!? 何!? ペコ待って――!!!」

ペコが奇声をあげながら自転車に飛び乗って走り出す。
器用に人混みをすり抜けていた。
俺も慌てて後を追った。町の光がどんどん小さくなっていく。

街灯がぽつぽつと頼りなくあたりを照らす暗い道になって、ペコはやっと止まった。
黄色っぽい街灯の下で、ペコはぐずぐずになっていた。
眼鏡がくもっていて、ちょっぴり泣いていた。
ペコは俺達の中で1番涙もろい。
嬉しくても悲しくても泣いていた。(DVDのジブリ映画の宣伝ですら泣いてた)
そのたびペコの眼鏡が漫画みたいに真っ白になるのを
俺とあっきーは指を指して笑うのだ。

「…よっし。自転車返しにいくか」

ペコはいつも1人で始まって1人で完結させる。
ペコの眼鏡はもうクリアになっていて、奥には一回り小さくなったペコのつり目があった。

「そうだね」

俺はいつもその場面で1番いい言葉というものがわからない。
今一番いい言葉を誰か俺にください。
…そう願っても、誰かなんて抽象的な言葉では得れるものなんかないのだけれど。

「みつる乗れよ」

「あ、うん」

俺はペコの跨った自転車に足をかける。
尻が痛くなるから後ろには座らなかった。
自転車をこぐペコとクラスメイトの話や、大好きなロックバンドの話をする。
話をしていると、真っ暗な景色でも、それはどんどん変わっていった。
自転車が進めば当然の話だった。
暖かい光が窓からこぼれる民家。
無機質な真っ白い明かりのコンビニエンスストア。
そこには俺らくらいの年の眠そうな店員がいる。

暗闇に電気をつけて、工事をするビルが見えた。
大人達が新しいものを作っている。
工事は新しいものを作る前段階で、今あるビルが取り壊されているところだった。

通り過ぎる時に、それが自分が母親とよく行っていた大型スーパーだと気付いた。
俺が子供の頃、物凄く大きく感じていたビルは二周りくらい小さくなって、
壁から細い鉄筋が何本も見えた。

「スーパー取り壊されたんだ…なんか寂しいなぁ」

俺の呟きに、ペコはみつるくんは大人になったんだねぇと笑った。
馬鹿にすんなよ~! と悪戯にペコの肩を揺らしたら、自転車も一緒に揺れてしまい蛇行した。
結果的に俺が1番ビビって、ギャーと情けない声を出して驚いただけだった。

ペコがこぐ自転車に乗りながら、俺はビルを振り返る。
崩れかけたビル。景色が変わったと感じるのは
俺が母親に手を引かれた子供の頃より大人になったからだろうか。

二周り小さくなったビル。
きっと二周りのうちの一周りは、母親の手を離した俺が少しは成長した証なんだろう。
自転車が進むたび、どんどん小さくなっていくビル。
俺は少しでも大きく見えるように背をぴんと伸ばした。
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