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俺の千代ちゃんといったら(沢井章之目線)

2009/05/08 [Fri] 23:09
俺の妹の千代ちゃんは可愛いけど性格がきっつい。
打率はまぁまぁやけど、守備はあんまりなかんじやった。(バレるとしめられるから内緒な!)
頭はすこぶる良いし、猫かぶりやから、まわりの大人は千代ちゃんがめっちゃんこ好きで、
俺はいっつもまわりから頑張りや! と背中とか尻を叩かれてばっかりやった。

それを疎ましいとか、むかつくとか思ったことはあんまない。
面倒やなぁとかは思う。
俺の机にあるPCにむかって真面目な顔をしてる千代ちゃんは肩につくかつかないかの
さらさらの髪を荒っぽい手つきで不機嫌そうにかきあげた。

「あーくんの高校って、偏差値低くもないけど、高くもないから中途半端やね」

「…千代ちゃん、それ心の中で言ってくれん?」

俺の部屋で、千代ちゃんは色んな高校のホームページを見ている。
千代ちゃんは今年受験生やから大変そうやった。
俺はというと、だらだらとむっちゃんの授業参観に着てく服を
漁ったり出しっぱなしにしたりしていた。(ようするに部屋が散らかしてた
千代ちゃんはマウスカチカチカッチカチ言わせて眉間に皺を寄せている。

「まぁ、千代女の子やから、あーくんとこの男子校なんて入れないし。
それに、女子高のが楽しそう」

「おっ、ええやん。文化祭よんで!(俺だけ!)」

「千代はあーくんの彼女探しのために高校行くんじゃないから」

「……(せやね)」

「あ、携帯にメールきた。あーくん千代の携帯取って」

俺のベッドに投げ出されて、緑色のライトをチカチカさせる千代ちゃんの携帯電話。
ライトの緑はあーくんの色や、と笑いながら設定してた千代ちゃんはなかなかにブラコンだ。
携帯電話を千代ちゃんに軽くぽいっと大きな弧を描くように投げる。
マウスを触るのをやめた千代ちゃんは今度は携帯電話をカチカチいわせてた。
ぷっと吹き出しながら笑う顔が、可愛く見える俺もなかなかにシスコンやった。

「か、彼氏?」

「おらんよ。美音ちゃんから。今高校選定中ってメール送ったら『千代ちゃんファイト~』って
 顔文字ばっか山ほど送ってきた。あの子、アホやね」

「他人様の妹をアホ言うたらあかんよ。ホモ漫画の主人公にされんで

「千代男やないし。あーくん安心しい。
 千代がいつか美音ちゃんを真っ当な道に戻してあげる予定やから」

「…ペコが聞いたら泣いて喜びそうやね」

「(描かれたのはペコ君か)美音ちゃんは何で自分の兄弟で漫画描く根性を
 他に使わないんやろね」

千代ちゃんは携帯電話を閉じる。
千代にはわからんわ~と首を傾げていた。
さっきから話に出てる美音ちゃんはペコの妹で、いわゆる腐女子やった。
見た目も声もふわふわほわほわして癒し系?やから、腐ってるのは残念やった。
(俺は別に人様の趣味を否定はせんけど肯定もせん!)

俺は笑いながら数ある服の中からピンクのポロシャツとジーパンだけ残して頷く。
爽やかな兄ちゃんルック!俺の爽やかさよ! 
金髪=遊んでそう な雰囲気を変えてくれ!

あとの服は適当にクローゼットに突っ込んだ。(あとで! あとで片付ける!!!

「……」

千代ちゃんがじーっと見てくる。
なんか。悪いことしとるわけじゃない(サボりは息抜き程度なら正義)けど緊張してくる。

「千代ちゃん…何? じっと見とるけど……」

「あーくん。明日学校なのに何で私服用意しとんの?」

「(ぎく)いや~日曜日ペコとみつると遊ぶからオシャレせんとな~って!!」

「ふ~ん」

細まっていく千代ちゃんの目が怖い!

「な、何?」

「ま、ええけど」

「(ほっ)(バレんかった)」

「バレんようにね」

「(もうバレとる!)」

ニヤニヤしながら俺の部屋から出てく千代ちゃんは意地悪だけど優しかった。

明日明日明日。


幸せな日になりますように!

俺のお姫様(望月みつる目線)

2009/04/13 [Mon] 20:54
俺は母子家庭だった。
妹が生まれてすぐ、父親は他に女を作って出ていった。
それから6年もたつけど、離婚してからは一度も会ってない。
会いたいと思ったこともなかった。(どこかで酷いめにあえ!)
だから、俺の家族は小学校の先生をやってる母さんと小学校に通う激ヤバに可愛い妹だ。

母さんも俺も、むつみを、うちの小さなお姫様を溺愛している。
母さんはむつみが大好きなピンクの洋服をいくらでも買い与えるし、
俺は歌ってと甘えられたら声が枯れるまで歌った。

「むつみ、お兄ちゃんの歌どう!? どう!?」

「ギター上手! むつみお兄ちゃんのギター大好き! 
 歌は下手だからないほうがいい

「むつみがお兄ちゃんに冷たいっ!(でも愛しい!)」

「お兄ちゃん、うざ~い!」

お姫様のお願いはなんでも叶えるのが我が家の当たり前。
だけれど、俺達家族が可愛いお姫様の望みを叶えてあげられない日がやってきてしまう。

むつみの小学校の授業参観日がすぐそこまで近づいていた。

俺は授業参観に親がきたことは一度もない。
別にきてほしいかったわけじゃないんだけど。
ただ、まわりの友達が恥ずかしいと騒ぐのに混ざれないのがつまらなかった。
まぁ、俺が授業参観のときは母さんも授業してるし、しょうがないといえばしょうがなかった。



俺の目の前に座っている母さんは、
むつみの授業参観のプリントを見ながらため息をついていた。

「むつみ、行けなくてごめんね」

「ううん! お母さんも授業参観頑張ってね!」

「むつみ! お兄ちゃんが授業参観いこうか!?」

「お兄ちゃんはちゃんと学校いきなさい」

「むつみの言うとおりよ。授業ちゃんとでなさい」

「……(はい…)」

怒られたけど、家族が教室いっぱいになる時間に、
自分だけ一人ぼっちになるなんて、そんなことむつみには経験させたくなかった。

そんな俺の思いは授業参観の日が近づくたび強くなる。
おかげで最近は授業も頭に入らない。(うん、まぁ、わりといつもだけど!)



「やっぱ俺、明日の午後サボる!」

俺の宣言に目の前の2人は目を丸くする。
ペコはイチゴ牛乳を吸いながら、俺に肩をすくめた。

「その発言、今日で何度目?」

「(え、数えてないし)…3回?」

「正解は覚えてないけど、少なくとも片手じゃ足りない」

ヒラヒラと右手を振るペコの横であっきーが苦笑していた。
呆れられても俺は行くったら行く。

例え、後で母さんにバレてけっちょんけちょんに叱られ倒されても!
震えは武者震いなんだ! 怖いからじゃないんだ! と俺は自分に言い聞かせていた。



「(めっちゃ震えてるし)……しゃーないな。あっきー、俺達もサボるか。むっちゃんのために」

「(もうこれ痙攣やね)…せやね。みつるがおかん怖がって可哀想やしね」

「え!?」

いきなりの2人の発言に今度は俺が目を丸くする。
吃驚しすぎて震えも止まってしまった。

「バレなきゃオッケーやんな」

あっきーは人差し指と親指でわっかを作る。
その奥であっきーの目が笑っていた。

「え…、い、いいの?」

「ええよ! 俺らはいつでも3人セットやろ! 邪魔やって蒲先(担任)がいっとったしな!」

「あ、あっきー! ありがとう!(…でもそれ全然誉められてないよ)」

ペコが俺の肩をポンと軽く叩く。

「将来の可愛い俺のお嫁さんのためだから。任して」

「ちょぉおお!! むつみはお兄ちゃんと結婚するの!」

((うわぁ…))

2人は口元を引きつらせながら俺を見て苦笑いしている。
俺は拳をぎゅっと握って、きたるべきその日を想像した。

3人で授業参観に行くとむつみがピンク色のほっぺをきゅっとあげて笑うんだ。
俺はそれを見てすごく嬉しくなって、幸せな気持ちになるんだろう。
その気持ちを実際に感じるためなら、2人まで巻き込んで! と怒る母さんも怖くない。

…ん?


「……ねぇ、もしかしてさ。母さんにバレた時、2人がいた場合の方が、俺倍怒られない?」

「「……」」

あっきーとペコは2人で顔を見合わせて同時に頷く。

「みつる。気にせん方がいい! ドンマイ!!」

「さーて、俺何着ていこうかな~。奥様受けいいかんじにしよーっと」

「ちょおおおお! 少しはフォローしてよおお!!」



大きい声で叫びすぎて、俺は母さんに怒られる前に先生に怒られたのであった…。

お姫様の笑顔まであとちょっと…
俺の胸は嬉しさがつまって軽くなっていた。


青信号の渡り方(不二家美学目線)

2009/04/04 [Sat] 00:57
平均が一番いい。並よりは良がいい。
失敗したら、最初から成功する気なんかなかったって言えばいい。
俺はカッコ悪いことが死ぬほど嫌いだ。
恥をかくことも、冷や汗をかくこともイヤだ。
だから無難な道を選んでばかりいた。
仲間外れにされないよう、八方美人に色良い返事ばかりして、
たくさんの友達を作った。
馬鹿にされたくなくて、こっそり勉強して成績上位をキープしてみせたりもした。

俺は子供のくせに、うまく世渡りをした気でいたんだ。
どんなに上手くやってるつもりでも、躓いたらなかなか立ち上がれない。
昔からそうだった。

今から7年前、俺が黒いランドセルを背負っていた頃、俺には新しい父親が出来た。
「Hello」
金髪、白い肌、青い目。
母親が連れてきた男はどうみても外人だった。
小さい俺にはものすごい怪獣に見えたほどだった。
俺は思いっきり一時停止をして、
さらに英語で話しかけられてすぐに大泣きした。

ダムが決壊したみたいに目からボロボロしょっぱい水が流れて、
一緒にいた小学校あがったばかりの妹までつられて涙腺ダム崩壊した。
不二家ミニダムがダブルで崩壊、と母親はよくこの話を笑い話にしてくるので、
俺はいつもいたたまれない気持ちになっていた。

その頃のディヴィッド、俺の父親はたどたどしい日本語しか喋れなかった。
だから英語が喋れる母親とばかり喋っていた。
俺は母親と妹をとられまいとしていたから、
英語を喋ってたまるかと意地になっていた。
悲しきかな。そんな俺とは対照的に、適応力のある妹は
いつの間にか単語しか喋れない英会話から羽化してしまい、
ベラベラ英語を喋るようになってしまった。
衛星放送で外国のアニメやドラマを英語で聞いて、
エロスラングの意味を聞いては両親を困らせている妹を
俺はぼんやり眺めていた。
(英語はエロいのならなんとなくわかる! 不思議!)

まぁ、今思うと俺は意地にもなってたけど、
それ以上に恥をかくのが嫌だったのかもしれない。
間違った英語を父親に指摘されて、
言い直す妹を見るのが俺は酷く恥ずかしく感じていた。
幼い妹に劣る自分を想像することすら、
プライドばかりが高い俺には耐えられなかった。
だから俺は英語が大嫌いになったし、父親以外の外人が怖くて、
話しかけられると固まってしまうようになった。
父親が日本語が喋れるようになった頃には、俺もすっかり諦めていて、
まぁカタカナの名字も格好良いからいいかとか思ってた。
(その後、父親は婿に入りました。意味ないだろ!!! ガッカリ!!)

「そういや、boiboi!!メンバー出会ってもう半年はすぎたんちゃう?」

あっきーの声に俺ははっとした。
現実に引き戻された頭はなんだかぼやけたままで、
教室と目の前のプリント用紙がチカチカして見えた。
長く考え事をしていた俺の頭は現実を受け入れたがらないようだ。
ずり下がり気味になっていた眼鏡をあげると視界がはっきりしてくる。
目の前にはみつるとあっきー。
あぁ、そうだ。
俺達は授業中に騒ぎすぎて怒られたうえに、居残りさせられたのだ。
今時漫画でもなかなかないシチュエーションだ。
居残りしてもう1時間は余裕でたっているのに、俺達のプリントは真っ白だった。
(あっきーなんか名前すら書いてなかった)

「そうだね~! 俺達の奇跡の出会いね」

みつるは鼻息荒く語り出す。声が滅茶苦茶でかかった。
俺は体をみつるから離すように捻って、大袈裟にため息をついてみせた。

「俺はどうせならみつるじゃなくて可愛い女の子がよかったな」

「せやね。俺もや」

「こんにゃろおお!!」

机をガタガタさせながらみつるが叫んだ。
静かな教室に響いて、ぐわんぐわんいって、教室が揺れたみたいに感じた。

「ごぉらぁああ!!! 沢井! 不二家! 望月! 静かにやれっつったろ!!」

案の定、様子を見に来た先生にめっちゃくちゃ怒られた。
3人でお互いになすりつけあったら、拳固をくらった。(漫画かよ!)
俺ははしゃぎすぎて先生に怒られて
居残りさせられたことも、拳固をくらったこともない。
boiboi!!のメンバーになってからはバカばっかやって毎日のように怒られている。
仕方なく手をつけるプリントは俺の大嫌いな英語だった。

「ペコ! スペル違うよ!」

「嘘!? あ~…英語消えないかなぁ!」

「…お? みつるも違っとるよ」

「嘘ぉ!?」

「結局ここなんなの? a?e?」

「えー?」

「a?」

失敗しても笑って歩ける俺らは、きっと無敵だ。
恥まみれだって言われても、3人で手を叩いて笑える。

赤信号みんなで渡れば怖くないっていうけど、
いつの間にか青信号を手を挙げて歩くことの方が怖くなってる自分に気付く。
でもこいつらと一緒なら恥ずかしくないと思えるのは何でだろう。
俺はいつの間にかもっともっと馬鹿をやりたい人間になってしまっていて、
間違ってると指摘されることも今なら怖くないと思えるようになった。
注意されても、それがどうしてかわからなくても、腕を耳の横につけて、
手をピンと高くあげて発言できる。

「わかんねーよ!! プリーズ、ワンスアゲイン」

「ぎゃはは! ペコめっちゃカタカナやん!!」

「オッケー!! リピートアフタミー!」


もう1回もう1回。

もしもう1回人生をやり直せるなら、
俺はもっと上手く青信号の交差点を歩ける気がした。

俺達の景色(望月みつる)

2009/03/03 [Tue] 21:45
「もう8時か! 楽しい時間はあっという間やな!」

あっきーが真っ暗な空に向かって勢いよく背伸びをした。

「ギター弾きすぎて指の感覚ない…」

ちょっと前まで指はひりひり痛かったのに…。
どうやら俺はK点を越えたらしい。
指はもう真っ赤を通りこうして青白くなっていた。

「よく歌い、よく弾きました…。やっぱいいよね。アンパン●ンの歌…」

「ペコ…歌詞思い付かんからって自暴自棄になりすぎやで。
 思わず適当に合わせた俺らもアホやったけどな」

「……。みつるだってまだ作ってないもんね!!」

「ぶうううっ! 俺をひきあいに出さない! 俺は大器晩成型なんだからね!」

ペコは俺のギター(ひろし。舘ひろしのひろしだよ!)を引っ張る。
2人がバランスを崩す俺を指を指して笑った。

「じゃ、俺は帰るわ! はよ帰らんと! 今日餃子やから!」

あっきーは手をブンブン振って走っていく。慌てているのか、道の石に躓いていた。
本当は部活帰りのあおいちゃんに会えないかうきうきしてるのを俺とペコは知っている。
(ペコが例の電車の子をあおいちゃんと勝手に名付けていた。
 あっきーが宮崎あおいを好きだから)

あっきーはいろんなことに一生懸命だ。
一番好きなことだけをやっている。そんな感じだった。
自分を曲げてまで、嫌いなことをすることはまずなかった。
だから毎回といっていいほど、俺とペコは
あっきーの分まで数学の宿題をしていた。(俺はほとんど手伝ってないけど)

嫌ことをしないあっきーは淀みがなくて、
あっきーの金髪みたいにいつもキラキラしていた。

「さて、自転車返しにいきますか」

「……」

「みつるは好きな子を探しに帰らないよな。好きな子いないもんな」

「す、好きな子なら、俺にもいるよ!(そういうペコの方こそ綾ちゃんはいいの!?)」

「むっちゃんの名前出したら、そこのローソンのからあげクン奢らす」

「……(バレテーラ)」

「……さぁ、武やんちのマンションにこっそり自転車おきにいくか」

「謝らないの!?」

「さっきメールしたら彼女と飯食ってるって」

ペコは砂だらけになった自転車を押しながら俺と並んで歩く。
人混みの多い通りを流石に2人乗りはできない。
道には食べ物や行き交う人達の匂いが混ざって漂っていた。
居酒屋やゲームセンターのネオンがチカチカしていて、
今からまだ夜は楽しくなるよと言っているようだった。
通りには部活帰りの高校生も多い。
近隣高校の制服や部活用のサブバックがちらちら人混みから覗いていた。

「あ、そういやペコ、綾ちゃんは?」

たった今すれ違った女の子が綾ちゃんに似ていた。
ペコの中学の同級生で、写メを見せてもらったら
小さくて可愛らしいかんじの子だった。

「……別れた」

「そっか―。……ぇええええ!!?? はっや!! 早くない!?」

横でペコが前ばかりを見つめて歩いている。
俺はこういう時1番頼りにならないことに大変定評がある。
ポケットに手を突っ込んで、中にあったiPodを無意味に弄った。

「2ヶ月で終わったわ…」

「そ、そっか。そうなんだ…う、うん…なんていうか……そっかぁ…」

「良いこと言えよ!」

「お、俺大器晩成型だもん!!」

「ウォオオオ――!!」

「ちょ!? 何!? ペコ待って――!!!」

ペコが奇声をあげながら自転車に飛び乗って走り出す。
器用に人混みをすり抜けていた。
俺も慌てて後を追った。町の光がどんどん小さくなっていく。

街灯がぽつぽつと頼りなくあたりを照らす暗い道になって、ペコはやっと止まった。
黄色っぽい街灯の下で、ペコはぐずぐずになっていた。
眼鏡がくもっていて、ちょっぴり泣いていた。
ペコは俺達の中で1番涙もろい。
嬉しくても悲しくても泣いていた。(DVDのジブリ映画の宣伝ですら泣いてた)
そのたびペコの眼鏡が漫画みたいに真っ白になるのを
俺とあっきーは指を指して笑うのだ。

「…よっし。自転車返しにいくか」

ペコはいつも1人で始まって1人で完結させる。
ペコの眼鏡はもうクリアになっていて、奥には一回り小さくなったペコのつり目があった。

「そうだね」

俺はいつもその場面で1番いい言葉というものがわからない。
今一番いい言葉を誰か俺にください。
…そう願っても、誰かなんて抽象的な言葉では得れるものなんかないのだけれど。

「みつる乗れよ」

「あ、うん」

俺はペコの跨った自転車に足をかける。
尻が痛くなるから後ろには座らなかった。
自転車をこぐペコとクラスメイトの話や、大好きなロックバンドの話をする。
話をしていると、真っ暗な景色でも、それはどんどん変わっていった。
自転車が進めば当然の話だった。
暖かい光が窓からこぼれる民家。
無機質な真っ白い明かりのコンビニエンスストア。
そこには俺らくらいの年の眠そうな店員がいる。

暗闇に電気をつけて、工事をするビルが見えた。
大人達が新しいものを作っている。
工事は新しいものを作る前段階で、今あるビルが取り壊されているところだった。

通り過ぎる時に、それが自分が母親とよく行っていた大型スーパーだと気付いた。
俺が子供の頃、物凄く大きく感じていたビルは二周りくらい小さくなって、
壁から細い鉄筋が何本も見えた。

「スーパー取り壊されたんだ…なんか寂しいなぁ」

俺の呟きに、ペコはみつるくんは大人になったんだねぇと笑った。
馬鹿にすんなよ~! と悪戯にペコの肩を揺らしたら、自転車も一緒に揺れてしまい蛇行した。
結果的に俺が1番ビビって、ギャーと情けない声を出して驚いただけだった。

ペコがこぐ自転車に乗りながら、俺はビルを振り返る。
崩れかけたビル。景色が変わったと感じるのは
俺が母親に手を引かれた子供の頃より大人になったからだろうか。

二周り小さくなったビル。
きっと二周りのうちの一周りは、母親の手を離した俺が少しは成長した証なんだろう。
自転車が進むたび、どんどん小さくなっていくビル。
俺は少しでも大きく見えるように背をぴんと伸ばした。

俺達の景色(沢井章之)

2009/02/15 [Sun] 13:48
学校の授業はいっつもおもろない!
世の中にはもっとおもろいことがめちゃんこあるはずなのに!
なんでおもろないことを学ばないけんのか!
俺にきっちり説明できるやつがおったらでてこいっちゅ―話やな!
高校生やからなんか言った日には家の近くの沼に沈めたんぞ!

「あ―あ―あ―! やっと授業終わったわ!」

「あっきー寝過ぎ」

「室岡のやつ最後まで睨んでたよ…」

隣のみつるが俺の心配してるのか眉が垂れてなっさけない顔になっとる。
寝てた俺を心配しているわりにはノートは進んでいないようだった。(ちゃんと受けとけ!)
室岡はうちの学校の数学教師(なぜか体育会系)で俺のこと目の敵にしとる教師なんよね。
俺はでっかい欠伸を1つしてがははと笑ってやった。
みつるは渋い顔。ペコは苦笑いしとった。

俺の名前は沢井章之。
神戸出身! 好きなんは楽しいこととプリンとカレー!
あと通学しよる時に電車で見かける女子高生の…ナントカさん!
(名前は知らん! 喋ったことないし! とりあえず可愛い!)
バンドを始めてのりにのった高校生!(のりにのったって…めちゃんこ寒いな…)

「黒板とにらめっこして勝てるのは千代くらいやろ!」

俺は頭の後ろに腕を組んで、椅子の後ろに重心を傾ける。
ペコの机に寄りかかった。
千代は俺の妹。きっつい中学3年生(可愛いけどな!)
こんなつまらん黒板とおっさんの景色でも寝ずに頑張る真面目な子やね。

「千代ちゃん優秀だからねぇ」

「やらんぞ」

「お義兄さん、何か言いました?」

「豆腐の角に頭ぶつけろ! なんか、こう……ぐちゃってなれ!」

ペコが頬杖ついてにやにやしとる。油断ならん。
こいつはバンドメンバーの不二家美学。通称ペコ。
ベース担当の眼鏡男子(オシャレ眼鏡って何!?)
いつもにやにやしてて何を考えとるかわからん奴!
ノリがいいし、お人よしだからなんか、友達が多いみたいで
3人で街におるとしょっちゅう知り合いに声をかけられとるね!
そこそこモテそうなのに可愛い女の子にデレデレするからすべてが台無しになる男。(残念!!)

「みつるも手だしたら許さんぞ!」

「え、俺? ち、千代ちゃん怖くて俺無理…」

「なんやと!? しばく!!」

「ええええええ!!」

「結局どっちでもダメなんじゃん…だったら俺は手をだして死ぬ!」

「お黙れエロ眼鏡!!!」

ガンとペコの机に椅子をぶっつけてやった! ざまーみろ!
みつるはいかにもコケそうな体勢の俺を心配している。
コケんよ!! って笑ったらこの前はコケたじゃん! と言い返してきた。
こいつもバンドメンバーの望月みつる。うちのバンドのリーダーでギターやね。
頼りないとこもあるけど、夢に真っ直ぐ突っ走ってる青春男。
一生懸命なところがなんとも面白い。(しゃぁないから、おれが面倒みてやっとんねんよ!)
妹のむっちゃんがめっちゃ可愛いせいで、ちょんみり言動やらがおかしい!
結婚するとか言うてるし! 俺も人のこと言えんけど!(でも俺は別に結婚したいとは思わん!)

「CABANAまで電車かー…」

みつるがごそごそとケツのポケットから財布を取り出している。
バンド練習をするスタジオまで、学校からは2駅。
みつるは逆方向なので余計に金がかかってしまう。
初乗り運賃ですんでも積もり積もればええ額や。
はいはい! とペコが手をあげながら俺の耳元ででっかい声をだした。
鼓膜破ける! 治療費払え!

「武やんのチャリパクろう! 3人で乗ればいいじゃーん」

「ぶうううううう! ペコ! それは武田くんに悪いよ!」

「せやで!」

「あいつ今日は部活の後、芙由ちゃんと帰るとか言ってたし、
 長く一緒にいさせてあげたいっていうね。俺のキューピット心なわけで……」

ペコが胸に両手を重ねてにやにやしながらもっともらしく喋るけど
それって逮捕されるんと違うのか。だけど、デートかぁ…

「…ならええか」

「おう! 武やんには後でメールしとくわ」

「えええ!? いいの!?」

「別にデートが羨ましいわけちゃうよ」

「あぁ、まったくだね!」

(2人ともすっごく羨ましいんだ…っていうか…ペコ…綾ちゃんは…?)

みつるの非難がましい視線をスルーして俺は立ち上がった。
2人も笑いながらついてくる。3人でだらだら喋りながら駐輪場に向かった。
もう今から3人でバンド練習することが楽しみで仕方ない。
一体何があるのか。どんな面白いことになるのか。わくわくして脳みそが沸きそうだった。

勝手に武やんのママチャリパクって学校の門の前をぐるぐる回る。
ジャンケン負けたペコがこいで、俺が後ろ座って、みつるがその後ろで立っている。
自転車がフラフラするたびみつるは大げさに騒いでいた。
学校の前の坂道は登ってきた朝よりずっと急な斜面のように見えた。
見える海がちょっぴり明るい緑になってキラキラキラキラ。眩しい。
朝の海がそこそこキレイで夕方の海がキレイなら昼の海はどんだけキレイなのか。
俺は明日の午前中の授業は自主課外授業にしようと決めた。

「おらー! いくぞ!!!」

「ぎゃあああ!! こわっ! め、めちゃめちゃ怖い!!」

「いけいけー!!!!!」

坂道をゆっくりと自転車が走り出す。
そのうちぐんぐんと勢いがついて3人乗りの自転車はこの世で最も早い乗り物になった。
肌を撫でる風が物凄く冷たくて、それでも物凄く気持ちがいい。
俺は拳を空に向かって高々と伸ばし、鬨の声をあげる。

「よっしゃペコ!! 海までいったれえええええ!!」

「おっしゃああああああああ!!! 俺の進化にBボタンはないぜええええ!!!!」

「えええええええええええええ!?」


走れ!!走れ!!!!もっと走れ!!
つまらん景色なんか吹き飛ばすくらいのスピードを俺らなら出せる。
最強の俺らでこの世の果てまで突っ走れ!!
3人一緒におれば何だって楽しめて、何だって出来る。

つまらんくなんかない、最高の景色ならいつでも俺が作ったる!

(その後マジでコケて砂浜つっこんで自転車砂だらけにしたので
 3人で武やんに謝りました。本当すいませんでした)

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